小説

『イマージナリー・エネミー』平大典(『撰集抄』(和歌山県))

あの事件以後、わたしは努力した。先生やほかのゼミ生などからにも相談して、図書館に通い、フィールドも歩き回り、次の進捗発表会に向けて、準備を進めている。パートナーとは別れることになったが、それでもお互いが納得するまで話した。
 ツインは今どこにいるのだろうか。
 マイ・ダイブを抜け出して、別のデジタル空間に飛び出したのだろうか。
 自分で世界を構築してしまったのか。現実を支配するために反乱を企てるとか。
 不思議な気持ちでもある。デジタルなわたしの活動範囲が拡がるほど、現実のわたし自身も自由を感じている。もちろんわたし自身のスペックが伸びたわけでは決してないが。
 想像上の同志、イマージナリー・バディ。
 こっちのほうがわたしには相性が良いみたいだ。
 わたしはいろんな妄想を胸に、背筋を伸ばしてから、クリックをした。

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