わたしはまだリードを保っている。
やがて黒い雲から雨がぽつぽつと降り始める。二回続けて空が白く光り、雷鳴が響き渡る。
ツインもエズラも雨粒を受けながらランを継続していく。
七キロが過ぎ、エズラが仕掛けてくる。
どんどんツインとの距離を詰め、横並びになる。
バーチャル空間の二人は、抜きつ抜かれつスピードを上げていく。
あと、一キロメートル。と、ツインが急に失速した。
「どうしたの!」
どんどん距離が拡がる。
でも。
負けないで。心で念ずる。
いよいよわたしはディスプレイをわしづかみにする。
起こっている出来事はデジタルで偽物の世界だ。でもわたしの気持ちは本物だ。
あと、三〇〇メートル。やがて、最後のストレート。
気づいたら、ツインに向かって吠えていた。
「ごめん! わたし、嘘をついていた」
ツインは、反応せずがむしゃらに走っている。
「パートナーとは別れそうだし。あの、大学のゼミで発表したら、ドベだった。全然だめだった。もう嘘は言わないから、ごめんなさい、だからあの、がんばって」
ツインはぼそっと告げた。
〈ありがと……〉
するとツインに変化がある。
【わたし】が胸を張り、ゴールに向けピッチを上げていく。
速度がぐんぐん伸びて、やがてエズラと横並び。
くんずほぐれずで突っ込んでいく。
ゴールテープに触れた、刹那。
光。すさまじい衝撃音。落雷。