小説

『27の香水』Rin(『とおりゃんせ』(福岡))

「はーい、って、ひかりちゃん?」
「こんばんは、ご無沙汰してます。急にすみません」
向かった先は彼の実家、あの頃より少しだけ皺が増えた彼の母がこちらを見る。
「全然。久しぶりね、会えて嬉しいわ」
「私何も知らなくて、さっき洸一くんのこと聞いて」
息を切らしながら、まとまらない単語を発する私の背中を、彼女は優しくさする。
「そう、よかったら上がって行かない?」
彼女はゆっくりとした口調で、寂しそうに微笑む。
走ったせいもあり、部屋の暖房が暑く感じた。
しかし、そんな暑さも彼の姿を見た瞬間に一瞬で引っ込んでいった。
写真の彼はあまりにも幼く、私がこの間まで見ていた笑顔だった。
癌だった。
大学入学後すぐにそれは見つかり、若い彼の体を癌は驚異的な速さで蝕んでいった。
彼が亡くなったのはちょうど7年前の12月15日、私の誕生日の日だった。
生前、彼の母は何度も私に伝えようとしたらしいが、彼がそれを拒んだらしい。
「こんな姿、見せたくないって、あの子強がって」
目の前で泣く、彼の母の姿に、これが真実なのだと突きつけられた。

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