小説

『27の香水』Rin(『とおりゃんせ』(福岡))

「こうちゃん、ありがとう〜!これで私も大人女子だ!」
百貨店の外では木枯らしが吹き、道行く人々が震える中、私は1人だけほくほくしていた。
「あのさ、ちょっと寄るとこあるから先帰ってくれない?」
「え?あ〜もしかしてケーキ予約してくれとか?笑」
軽口を叩く私の後ろで少し寂しそうに微笑む彼。
「わかったよ!先に帰っとくね」
そう言ってとおりゃんせの合図と共に十字路の反対へと渡る。
振り返ると、すでに彼の姿はそこにはなかった。

年明け、高校の同窓会に出席するべく私は地元へと帰っていた。
挨拶もそこそこに彼の姿を探すものの、彼はこの場にはいなかった。
「久しぶり〜!ひかりが同窓会来るなんて初めてじゃない?」
「久しぶり。タイミングがね」
そわそわする私に話しかけてきたのは、高校時代分け隔てなく接してくれた友人の1人、櫻木美華子だった。
「そっか〜、洸一くんのこと引きずって来ないのかと思ってた」
「え?こうちゃんに何かあったの?」
隣に座る美華子から出てきたその名前に過剰に反応する。
「え?まさか知らないわけじゃないよね?」
彼女は私の言葉に驚きつつ、ゆっくりと口を開く。
「あ、ちょ!ひかり!」
同窓会のあっている居酒屋を飛び出し、息が整う前に呼び鈴を鳴らす。

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