帰省から一人暮らしの部屋へと戻ると、そこはひどく静かで冷たかった。
いつの間にか消えた彼の形跡。
テーブルにはあの日開けられなかった彼からのプレゼント。
持ち手のリボンをゆっくりと解くと、中には未開封の香水と見慣れないカード。
「う、ふうう」
そこには、シンプルでまっすぐな、彼の想いがカードから溢れていた。
「スマホ持った!鍵持った!アイロンの電源切った!よし!」
一つに結んだ髪を揺らしながらパタパタと玄関向かう。
透明のボトルを手に取る手首と首へと振りかけ、全身の精神を整える。
「心配しないで、大人になっても一緒だから。いってきます!」
飾られたカードをそっと触り、ゆっくりとドアを閉める。
「もういいのかい?」
十字路を渡る彼女を見つめる背後から、聞こえる声に目を閉じる。
「はい、わがままいってすみませんでした」
「じゃあ、行こうか」
「はい」
彼女が渡り切る前に、その場を後にする。
行きはよいよい 帰りは怖い
僕はもう帰ることができない。できるのは彼女だけ。