小説

『羨望の色素性母斑』岩花一丼(『こぶとりじいさん』)

 石島はようやく俺の顔を見た。
「何で急に自虐ネタなんかやったのか聞きたくてさ」
 真顔だった。心の底から疑問に思っているのだろうか。
「うるせえ。なんだよ急に。関係ねえだろ」
 あんな醜態、思い出したくない。
「そっか。まあ大体察しはつくよ。俺、お前の気持ちわかるし」
 一方的に仲間意識を持っているだけだと思っていた分、嬉しかったし安心した。
「そんなこと言って学校来いとか言うんだろ?そんな手には乗らねえよ」
 石島は吹き出した。
「いやいや。あんなとこ行かなくていいでしょ」
 こいつは一体何がしたいのか見当もつかない。ただ、俺と同じようにあの場所を好んではいない様子だったので少し嬉しかった。
「そんなことよりお前もお笑い好きなんだな。俺、芸人になりたいんだよね。学校行かなくて時間あるんだったら何かネタでも作れば?」
 そんな発想は無かった。
「いや、俺は見る専門で実際にネタをやろうなんて思ってねえよ。それにまたあんな大惨事引き起こしたくねえしな」
「……じゃあさ、俺のピンネタ作るのは?」
 何から何まで肩透かしを食う。
「は?お前の?残念ながらお前みたいなクラスのおちゃらけ者はプロじゃ通用しねえよ。大御所芸人が言ってるんだから間違いない。通用するのは根暗な奴だ」
「その発言は俺も知ってるよ。でもネタ作るの俺じゃないんだから、やってみないとわからないじゃん」
 ひょっとすると、石島は俺のことを必要としてくれているかもしれない。
「俺が根暗ってか。そもそもたいして話したこともないのになんで急に俺にそんなこと頼むんだよ。不気味だぞ」
 石島は笑顔になる。
「お前も俺も似たようなことで苦しんでるからね。まあ、一種の仲間意識みたいなもんかな。何回か話しかけてもお前は素っ気なかったけどね」

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