小説

『羨望の色素性母斑』岩花一丼(『こぶとりじいさん』)

 俺の鼻の下には一円玉くらいのホクロがある。幼少期にはまだ黒胡麻くらいの大きさで全く気にならなかったが、徐々に大きくなってきていた。小学五年生のある日、隣のクラスのさほど面識もない岡田という奴に「鼻くそついてるよ」とニヤけ面で言われた。最初は本当に鼻くそが付いているのかと思って慌てて擦ると岡田に大笑いされ、すぐにホクロのことであるとわかった。それから岡田は周りの奴らにも俺のことを「鼻くそ」と吹聴して回り、いつしかあだ名が鼻くそとなった。
 親に相談しても「チャームポイントだから」と軽くあしらわれてしまい、思い切って爪切りで抉ろうと思い立ったが、たとえ取れたとしても周りの奴らに「あ、鼻くそ取ったんだね」と言われて小馬鹿にされるに違いないだろう。ホクロを気にしていることが表立ってしてしまうと、それはそれで恥だと感じるようになり、八方塞がりになっていた。こんな自意識過剰になってしまったのは例の鼻くそ事件に起因と思う。
 中学受験をすれば、周りは初対面の奴らばかりになるのであるから、何も気にすることなくホクロを除去できるし、進学校に行けば親もこちらの要望を呑むだろうと考え、塾に通わせてもらった。少しは頑張ったと思うが、中々成績は上がらないし、何よりもお笑い番組をリアルタイムで観られないことがストレスで辞めた。

 結局地元の中学校へ進学した。入学式でおろしたての制服を、したり顔で着て楽しげに話している奴らを見ていると、まるで自分のことを話のネタにしているのではないかと思ってしまう。

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