小説

『羨望の色素性母斑』岩花一丼(『こぶとりじいさん』)

 あの岡田と同じクラスになってしまい先が思いやられていたが、石島という男を知った。彼は隣町の小学校に通っていて初対面だったが、顔面はホクロで敷き詰められていた。自分のホクロと比較すると彼はさぞかし苦労しているのだろうと憐れんでいたところ、早速岡田を筆頭としたクラスの偉ぶっている奴らが彼に向かって「レーズパンじゃん」と言った。ホクロ事件を思い出し、彼に同情したが、杞憂だった。彼は満面の笑みで自虐をしたのである。
「そうそう。日が経つにつれてレーズン増えてんだよ。そのうち巨大レーズンになるんじゃないかなあ」
 偉ぶった奴らは石島のことを面白い奴だと気に入ったのか、瞬く間に打ち解けた様子だった。成程彼のように明るく振る舞えば万事解決するということはわかったが、そんなことができれば誰も苦労はしない。よく自虐ネタを披露している芸人がいるが、心の底から尊敬する。ましてや今まで奴らを避けるように過ごしてきたにもかかわらず、急に人格を変えたところで蔑んだ、それこそ鼻くそを見るような目で見られるに決まっている。もっと早く彼の存在を知っていれば、変われていたのかもしれない。
 石島は誰にでも気さくに接しており、いつしかクラスの人気者になっていた。どうやらお笑い芸人を志しているみたいだが、とある大御所芸人が「大成する芸人はクラスの人気者タイプではなく、根暗な人である」と言っていたので彼では難しいのではないかと思う。
 当然、俺にも話しかけてくれたが、周りの奴らからホクロ同士で話しているだの何だの言われている気がして、素っ気ない対応をしていた。彼は一切俺のホクロについては触れてこなかったので不思議だった。いっそのことこちらから彼のホクロについて触れてみようと思ったが、嫌われてしまうのではないかと思い、踏みとどまった。

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