小説

『羨望の色素性母斑』岩花一丼(『こぶとりじいさん』)

 玄関ドアを開けると、石島が立っていた。石島を見ると同時に急に恥ずかしさが込み上げてきた。自分がどんな表情をしていたかは分からないが、笑顔だったかもしれない。気持ち悪いと思われたかもしれない。真顔になり、素気なく「なんだ石島か」と呟いた。
「なんだってなんだよ。俺がいない間にスベったからズル休みしてんのか?」
 石島のニヤけ面には嫌味がない。
「うるせえよ」
「とりあえずさ、家入れてよ」
 こいつと周りの目を気にせずに話せる日が来るとは思わなかった。
「は?」
「いいじゃん、いいじゃん」
 ズカズカと家に入ろうとする石島を、やめろと言いながらもドアを大きく広げて迎え入れていた。

 「汚ね〜。ポテチくらい片付けろよ」と言われたのでお前のせいだと言い返してやりたかったが、言えるわけがない。パソコンを見た石島は「落語なんて渋いね」と呟いて床に座った。俺はこの異質な空間にそわそわし、手持ち無沙汰になるのが不安でとりあえずポテトチップスを食べ始めた。
「何だよ急に押しかけてよ。先生に言われただけだろ。どうせ」
「別に何も言われてないよ」
 石島は俺の部屋を見渡している。そういえば、親以外に部屋を見せるのは初めてかもしれない。部屋中に貼ってあるお笑い関連ポスターやDVDコレクションが見られていると思うと急に恥ずかしくなり、ポテトチップスを食べる手が進む。
「じゃあ何で来たんだよ」

1 2 3 4 5 6 7 8