小説

『羨望の色素性母斑』岩花一丼(『こぶとりじいさん』)

 心の揺さぶりを感じ、鼓動が早くなる。
「あっそ。まあ考えてやるよ。どうせ暇だし」
 素直になれなかった。
 石島は、俺の肩を叩いた。
「まあ、気が向いたら書いてくれよ。それか俺のネタの添削でもいいよ。幾つか書いてみたはいいけど、どれもパッとしなくてさ」
「……取り敢えずもう帰れよ」
 帰らずにもっと色々話したいと思ったが、言葉が上手く出てこなかった。なにより泣き顔を晒すなんてことは言語道断。仏頂面を何とか作り出し、そんなこと言わないでもう少し居させてよ、という言葉を期待しながら石島を見送った。

 部屋は再び静寂に包まれていて、「また明日」という楽しげな声が響き渡る。窓から覗くと野球部であろう青年たちが、自転車に跨っている。

 もう虚しさは感じなかった。

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