小説

『シャボンの姉』辻川圭(『シャボン玉』)

 雑木林を突き進むと、十円禿げみたいな空間に辿り着いた。そこには今もなお、一部が焼け落ちた秘密基地が立っていた。私は焦げたドアを開けて中に入った。以前は沢山あった銃達も今は全て回収されてもぬけの殻になっていた。私は重たい身体をどさっと床に降ろし、焦げた壁にもたれかかった。そして、大きくため息を吐いた。
 「ねえ、また何かあったの?」
 隣から、私によく似た声がした。「千草」と私は声の方を向いた。
 「この様子じゃあ、私が成仏できるのはいつになることやら」と千草は困ったように微笑んだ。「で、今日はどうしたの?」
 「んー、なんか担任の先生が進路を早く決めろだって。別に夢も何もないのに、どうして先生は無理やりにも先に進ませようとするんだろうね」
 私は両腕を前に出してぐっと伸びをしながら言った。
 「そりゃ、先生だって自分の生徒はプー太郎になって欲しくないんだよ。そういう花だって、このまま何もしないで生きてく訳にはいかないでしょ?」
 千草は私の横顔を見つめた。私はそんな千草に目を合わさず、ぼんやりと正面の焼け焦げたドアを見つめていた。
 「うーん。でも、特にやりたいこともないんだよね」と私は千草に顔を向けた。
 「そっか」と千草は言った。

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