小説

『シャボンの姉』辻川圭(『シャボン玉』)

 その時は、唐突に訪れた。
 大きな爆発音。熱風。そして、宙を舞う千草の姿。
 秘密基地の屋根まで飛んだ千草は、そのまま無慈悲にも地面に叩きつけられた。血まみれで、もう息はなかった。

 後々聞いた話だが、あそこは戦時中に軍事施設として機能していたようだった。その名残として小屋には銃が置いてあり、地雷が埋められていた。そのせいで、千草が死んだ。

 「明日から夏休みになるが、あまり遊び過ぎるなよ。受験や就職に向けて、各自準備を進めるように」
 教壇に立ち、担任の先生は言った。禿げていて、面白みのない先生だった。夏休み前最後のホームルームが終わると、その禿げた先生に呼ばれた。職員室で、禿げた先生は言った。
 「花、お前だけだぞ。まだ進路希望出していないのは。どうする気なんだ」
 呆れたような、馬鹿にするような表情だった。
 「これから考えます」
 「これからって、もう夏休みだぞ。もう受験勉強を進めているやつもいるし、希望する職場に履歴書を出してるやつもいる。それなのに」
 「わかってますよ」
 表情を変えぬまま言うと、禿げた先生は小さくため息を吐いた。
 「本当に、頼むぞ」
 私は軽く頷き、職員室を出た。

 学校を出た私は、暑苦しい外の空気を吸い込み、大きくため息を吐いた。そしてゆっくりと歩き始めた。しばらく歩くと十字路に差し掛かった。私はそこを右に曲がった。そして秘密基地に向かった。

1 2 3 4 5 6 7 8