小説

『シャボンの姉』辻川圭(『シャボン玉』)

 話し終えた千草は私に銃を渡した。
 「花、秘密基地の前にドラム缶があるでしょ?そこを目掛けて撃つの。中にガソリンが入ってるから、撃てば爆発して秘密基地は燃える。秘密基地を壊して、私達の門出にしよう」
 「嫌だよ!」
 私は千草の両肩を掴んだ。そして、震える声で言った。
 「千草は、私と一緒にいたくないの?」
 私の声は震えていた。涙越しに見えた千草の唇も震えていた。
 「いたいよ。でも、いれない。だって、私はもう死んじゃってるから。私ね、いつも思うの。どうして死んじゃったんだろうって。本当はもっと生きていたかった。花と大きくなりたかった。でも、私にはもう出来ない。だからねえ、お願い。花はしっかり生きて。私の見ることの出来なかった世界を沢山見て。素敵な人と出会って。花の子どもを優しく撫でてあげて。優しいお婆ちゃんになって。私の生きれなかった未来を精一杯生きて」
 千草はぼろぼろと涙を溢した。酷く辛そうな表情だった。その姿を見て、私の中で「千草の死」という何処か空想的な事柄が現実という衣を纏っていった。そっか、私は千草の死を受け入れないといけないんだ。
 「分かったよ」
 私はゆっくりとドラム缶に向けて銃を構える。
 「これで本当に、お別れなんだね」
 「そうだね」
 あと一㎝、千草の足がずれていれば、私達は一緒に高校に通っていたかもしれない。男の子の話をして、どの大学に行くか話していたかもしれない。ずっと、ずっと、二人で笑っていたかもしれない。でも。
 「千草、一緒にいてくれてありがとう」
 「こちらこそ」

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