小説

『キズをおって』森本航(『飯野山と青ノ山の喧嘩』(香川県))

 結局、私は、謝ることができなかった。目も合わせられない。
 半月ほど経って、ガーゼが取れたその下。こめかみと目尻のちょうど間のところに、縦に白い筋が残っているのを見た。見て、私は逃げるように顔を伏せる。
 胸につかえを抱えたまま、三年生になり、クラスは別々になった。
 泉は顔の傷を隠そうともせず、前と同じように振る舞っている。
 私は、他人と関わらないよう、目立たないように、小さくなって過ごした。 

 飯野山と青ノ山はその昔、どちらが立派な山かで揉め、取っ組み合いの喧嘩をしたのだという。その結果、飯野山は右肩を、青ノ山は頭を切り取られた。だから、飯野山は東側に窪みがあり、青ノ山は山頂が平らな低い山になったのだとか。

「飯野山と青ノ山みたいやな」と言われていた時のことを思い出す。思い出して、また胸が塞がるような気持になる。
 何か言わなければ、と思い続け、しかし、何も行動に移せないまま月日は過ぎていった。泉の周りにはいつも人がいて声をかけづらい、というのもあるが、それが言い訳だというのは、自分でも分かっていた。
 結局、何も出来ないまま中学を卒業した。
 私たちの地域は、高校がそれほど多くない。私と泉は、同じ高校に入学することになった。泉は高校でもこれまでと変わらず誰とでも気さくに話し、私は、目立たず小さく過ごしている。全く話す人がいないわけではないが、あの件以降、人と深い仲になるのを避けている自分がいた。

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