小説

『キズをおって』森本航(『飯野山と青ノ山の喧嘩』(香川県))

 小さい頃、私と泉を指して「飯野山と青ノ山みたいやな」と言われたことがある。
 私たちの町の、南北にある二つの山。
 飯野山は、標高400メートルちょっと。頂上付近の東側が少し窪んでるものの、絵に描いたような綺麗な三角形をしていて、「讃岐富士」なんて呼ばれたりしている。そこから4キロほど北にあるのが、青ノ山。頂上部が広く平らな円錐台で、標高は飯野山のちょうど半分くらい。
 二つの山は兄弟山なのだという。飯野山が兄で、青ノ山が弟。
 背の高い泉と、小柄な私。
 私たちは幼い頃から、いつも一緒にいた。
 あんなことが起こるまでは。

  ◇

 中学二年生も終わろうとしている二月の放課後。
 私と泉と、隣のクラスの女子二人で、教壇の端の方で立ち話をしていた。
 泉とは一年の時は別々だったが、二年で同じクラスになった。クラスが違っても、休み時間に話したり、一緒に帰ったりはしていたわけだけれど。一緒に話している二人は、泉の一年の時のクラスメイトだ。私も、一年の頃からよく話をしていた。
 泉は背も高く、美人で、運動も勉強もそこそこできる。人当たりもいいから、友達はとても多い。自分が傍にいられることを、私は嬉しく思っていた。
「泉と葵って、小さい頃からずっと仲ええん?」一人が聞き、
「そうやな」泉が応える。
 幼稚園の頃からの仲だ、という話をすると、もう一人がニヤニヤとしながら、
「ほんなら、親友ってやつやな」と言う。
「何なんその言い方、やめてや」
 笑いながら返す泉の言葉に、不意に私は、胸がざわつくのを感じた。

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