小説

『キズをおって』森本航(『飯野山と青ノ山の喧嘩』(香川県))

 そして、現在。入学して半年が経った、秋の文化祭。
 私はクラス展示の当番が終わって、一人で歩いている。
 特に目的はないが、一人でじっとしていられる場所もない。
「写真部」と控え目な装飾がなされた教室を見つけ、なんとなく入ってみる。
 教室中に、部員が撮ったのであろう写真が飾られている。壁にあるのは比較的小さい、A4サイズ位のもの。中央のパーテーションには、一辺50センチを超える大きい写真が掛けられている。
 その大きな写真のうちの一枚に、私の目は吸い込まれた。
 横向きの画面の真ん中に、少し下から写したような泉の横顔。向かって右を向いているから、見えるのは顔の右側だ。背景はぼやけているが、青々とした樹が枝を伸ばしており、木漏れ日が彼女に点々と落ちている。
 泉は髪をかき上げるような仕草をしていて、だから例の傷がくっきりと強調されて見えた。そしてその目は、正面をまっすぐ見据えている。彼女が何を見ているのかはわからない。目線を追っても、もちろん画面の端があるだけだ。
 綺麗だ、と思った。
 しかし、それ以上に様々な感情が沸いてきて、私は言葉を失った。
 ふと、下に添えられたキャプションが目に入る。
[1年4組 遠藤愛衣『いま』]

 部屋を出ようとした時、扉の前に一人の女子生徒が座っているのに気付いた。当番の写真部員らしい。どうやら私は、出口から入って、入口から出ようとしていたようだ。
 知らない子だが、制服のリボンの色で同学年だとわかる。
 目が合った。何か言わなきゃと思い、口を衝いて出たのは、

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