小説

『波と波の間』村上ノエミ(『人魚塚』(新潟県上後市))

 横たわる女を撫でていた。
「私の友達に似ているわ」
「なにが?」
「その、あなたについているもの。私に入ったもの」
「これが、友達に?」
 私は褌の上から私を包んだ。
「亀よ。あの辺りで暮らしているの」
 女は少し寂しそうに、島に目をやった。
 山の峰のような女の曲線に手を滑らせると、月明かりに照らされ、きらきらと腰が光り始めたように見え、その輝きが段々と脚の方にも広がっていく。鱗。であった。
「もう行かなければ」
 女はそう言うと、両手で私の頬を包み、私の唇を吸うと、海に向かって走り出した。
「待ってくれ。私と…!」

 光る尾が波間から振り上げられ、女は海面に散り散りに浮く月光を昇るように小さくなっていった。寄せて返す波の音。なぜかふと、里の姿が頭をよぎった。

 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10