今思うと、恋愛において私は陽菜より一歩先んじたと思っていた。私のいかにも上からの物言いに、陽菜の目に光が宿った。陽菜は起き上がり、しっかりと私の顔を見、低い声で言った。いつもの甘ったるい声でなく。
「私は誰とも付き合わない」
「え?」
「知ってたよ。陽菜が新藤に惹かれてたこと。だって昔から私は陽菜を見てたもの」
「ならなんで?」
「私は陽菜だけいればそれでよかったの」
「私は陽菜だけいればそれでよかったの」。私はその意味を長いこと理解できなかった。ただ、新藤と付き合っていく中で陽菜を憎む気持ちは次第に薄れていき、ほどなくして陽菜は県外に転校していった。
大人になった今、私はもう一人の陽菜の背中を切なく思い出す。陽菜が本当に守ってほしかったのは私だったのだから。