小説

『陽菜と陽菜』山崎ゆのひ(『うつくしきもの(清少納言)』)

 山のように告白されながら、陽菜がまだ誰とも付き合ったことがないのは知っていた。そこが、陽菜が女子から嫌われない理由だと思う。男子人気を鼻にかけて、とっかえひっかえ彼氏を替えるようなタイプだったら、女子から総スカンを食っていただろう。
 幼い頃、陽菜みたいに誰からも愛され、庇護欲をかき立てられるような存在になりたくて、陽菜の仕草を真似ていた時期があった。だって、私も周りから大切に扱われたかったのだもの。人を見るときにちょっと小首を傾げたり、手で口を覆って笑ったり。そしたら周りの友達に思いっきり笑われた。よくよく考えると、陽菜は背が低いから、人と話すときにはどうしても下から見上げるような体勢になってしまうのだ。私が真似ると、寝違えて今日は首がこっちにしか曲がらないの、みたいにしか見えなかったらしい。それに気が付いてからは、私は即座に陽菜の真似をやめたが、それは私がそうしたか弱そうな女の子には絶対になれないということに気付いた最初だった。
 なんだよ、新藤。あんたもやっぱり小っちゃくて可愛い女の子がいいんだ。告白する前に失恋した。その夜、私はベッドの中で少し泣いた。

 
 翌々日の放課後、一人で校門を出ると、私の前を身長差のあるカップルが歩いている。夕陽に輝く柔らかな巻き毛。あれ? 陽菜じゃん? きっちり半人分の距離をとって隣にいるのは、新藤篤人だ。なんだ、なんのかんの言って、陽菜、新藤と付き合うことにしたんだ。私は胸の痛みを感じながら、でも帰る方向は一緒なので、距離を置いて2人の後ろを歩いた。陽菜が新藤に何か言う。新藤が身体ごと向き直ってそれに応える。陽菜が新藤を覗き込むように斜め下から何か言うと、新藤はそれを聞き取ろうと、さらに陽菜の方に上半身を屈める。
 夕陽に浮かぶ2人のシルエットを見ていると、いくら恋愛に疎い私にもさすがにいい雰囲気なのが分かってきて、急いで脇道に逸れて遠回りして家に帰った。それ以上2人を見ていたら、泣き出しちゃいそうになったから。

1 2 3 4 5 6 7