小説

『陽菜と陽菜』山崎ゆのひ(『うつくしきもの(清少納言)』)

 陽菜は自分の魅力を自覚しているのか、大して驚きもしないで封筒を受け取り、中身を抜き出して目の前に広げた。それは気の利いた便箋なんかじゃなくて、レポート用紙にエンピツで書かれていた。そして陽菜よりも頭一つ背が高い私からは、苦労なく全文が見えた。
『前から気になっていました。今度一緒に帰りましょう』
 なんてことはない。ごくごく普通にラブレターだ。私は興味を失って、文面から目をそらした。陽菜は律儀に最後まで読んでつぶやいた。
「ねえ、これ、男子バレーの子だよね」
「え?」
裏返した封筒の差出人のところには『新藤篤人』と書いてある。私は息を呑んだ。新藤篤人は身長188cm、男子バレー部のエースアタッカーだ。新藤、お前もかよ。
いつの頃からか、自分より背が高いか低いかという物差しで男子を測るようになってきて、新藤は『高い』グループに入る貴重な存在だった。部活の朝練習のあと、女子部員と小腹を満たそうと、体育館横でこっそり弁当を広げていたら、ボールを運んできた新藤が「おっ、美味そう」と近寄ってきた。メンバーが何人もいたのに、一直線に私のタッパーからひょいとおにぎりを取り上げ、一口で平らげて「サンキュ」。日に焼けた顔をほころばせた。
部活は男女隣のコートで練習するから、大きな掛け声を出してキレのあるアタックを決める新藤の姿を、いつの頃からか私は目で追うようになっていた。新藤は私のことを『可愛くない方』とか『巨人』なんて呼んだりしない。放課後、部室前で2ℓのファンタを一気飲みして「うめぇ」。なんか、食べたり飲んだりしてるときの印象ばかりだけれど、新藤のいかにも男らしい食べっぷり、飲みっぷりに私は魅力を感じていたのだ。
「ちょ、ちょっと、ほかになんて書いてあるの?」
 私は上ずった声で聞いた。
「割と普通だよ。一緒にどっか遊びに行けたらたらうれしいって」
「ふーん、意外に平凡なんだ」
私は落胆しているのを陽菜に感づかれたくなくて、そっけなく言った。
「で、どうするの? 付き合うの?」
「えー、ちょっと不安だなあ」

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