えっ、えっ? 一瞬にしてあの白い封筒が頭に浮かんだ。
「あ、あれ、私宛だったの?」
「そうだよ、ちゃんとお前の下駄箱に入れたぞ」
間違いじゃなかったんだ。驚きと歓喜が一緒くたになって頭が追い付かなかった。
「返事が遅いから、俺、もう一人の伊藤に聞いたんだよ。背の低い方。お前と仲がいいだろ? そしたら、『陽菜はもう付き合ってる子がいるからあきらめて』って言われて」
え? 陽菜がそんなことを?
「でもお前の様子見てたら、そんなふうに見えないしさ、ってか、お前の口からはっきり聞いて失恋したかったわけ」
夕陽に新藤の白い歯がまぶしい。私は逆光になって、青ざめた顔色に気が付かれないはずだ。
「いないよ、付き合ってる子なんて」
「マジ? やった、じゃ、俺と付き合ってください」
差し出された手。私はドキドキしながら「お願いします」と大きな手を握り返した。待ち望んでたはずの展開を100%喜べない自分を感じながら。
私は帰宅するとすぐに陽菜に電話した。1度コールしただけでつながった。
「陽菜ぁ? どうしたの?」
「あんた、なんで新藤に嘘ついたの?」
黙り込む陽菜。私は胸に溜まっていた思いをぶちまけた。
「私が誰かと付き合ってるからあきらめろなんて。私がシングルなのは、あんたもよく知ってんじゃん」
「……ごめん」
「謝るくらいなら、あんなこと言わななきゃいいでしょ? あんた、自分に気があったと思ってた子が私を好きだったって分かったから、ムカついて嘘ついたんじゃないの?」
「違う、違うよ」
慌てて否定する陽菜の全てが信じられなくて、私は一言残して電話を切った。
「あんたとは絶交だから」