小説

『座敷ボッコたち』春名功武(『ざしき童子のはなし』(東北地方))

 男は81人の生徒が並ぶ列に今一度目を向ける。このまま座敷ボッコが消えなかったら、どうなる。朝の集いが終わった後は、食堂へ移動しての朝食。34人分の朝食を81人で食べることになる。大家族の食卓どころの騒ぎじゃないぞ。料理の奪い合いが起こり、血を見る事になるかもしれない。朝食の後は、林間学校を締めくくるクラス対抗レクリエーション。種目は、クラス全員での大縄跳び、クラス全員リレー。完全に不利だ。学校に帰るバスだって、81人全員は乗れないだろうな。もう1台チャーターするしかないか。それでも、学校に到着して、林間学校が終わった時点で、座敷ボッコが消えてくれたのなら、被害は最小限だ。

 だけど、通常の授業が始まってもまだ居座り続けられたら…81人の生徒を受け持つ事になるのだ。男は重荷に感じる。34人でも手一杯なのに、81人なんてとてもじゃないが、1人では対応できない。それでなくても、小学校教員は目が回るほどの激務だというのに…。そもそも今の教育現場は破綻している。多忙すぎる業務、生徒指導、モンスターペアレントの対応、やることが無限にある。あげればきりがない。生徒が増えれば、その分教師の負担も増える。これはもう、1人では抱えられる問題ではない。

 宿泊施設のその部屋は、異様な光景だった。男の呼びかけで、林間学校の引率でやってきた先生たちが集まっている。目を血走らせ、気迫に溢れた顔なのは、今後の行く末はこれにかかっているからであろう。気持ちは一つであった。先生たちは、両手をつないでまるくなり、「大道めぐり、大道めぐり」というかけ声を発しながら、ぐるぐるぐるぐる部屋のなかをまわる。こうなったら、教員を増やすしかない。

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