小説

『座敷ボッコたち』春名功武(『ざしき童子のはなし』(東北地方))

 列の先頭は、杉山涼平。紛れもなくうちのクラスの生徒だ。女子の先頭は、田中二葉。彼女もれっきとしたうちのクラスの生徒だ。次は、日野悠馬。はい、はい、まさしくうちのクラスの生徒。次が、米沢結奈。副委員長の米沢ね。うちのクラスの生徒。この調子なら、簡単に見分けられるかもしれない。次は、田淵颯介。目立ちたがり屋でクラスのムードメーカー。うちのクラスの生徒だ。次は、河野千夏。毎朝花壇の水やりをしてくれている心優しい女子。うちのクラスの生徒。その次は、成瀬晴樹。確か自宅が学校の目の前なんだよ。うちのクラスの生徒。次は、芝原恵。給食を食べるのが遅くて、いつも掃除の時間までかかってしまう。うちのクラスの生徒だ。次は…

 そうして、男は列の最後尾までたどり着いた。とうとうコンプリートしてしまった。列に並んでいる全ての生徒の名前を言えてしまったのだ。1人も知らない顔がなく、1人も同じ顔がなく、誰が増えたのか、どうしてもわからない。
「座敷ボッコ恐るべし。完敗だ」
しかも生徒数はだいたい70人ぐらいだろうと思っていたが、勇気を出して数えたら81人もいた。34人だった生徒数が81人。47人も増えた。生徒数より座敷ボッコの方が多いことになる。増えすぎだろう。2人に1人以上は座敷ボッコじゃないか。何故、見抜けなかったんだ。

 座敷ボッコはいずれ消えていなくなるのだろうか。男は座敷ボッコの話の結末はどうだったか思い出す。子供たちが10人から11人に増えて、この中の1人が座敷ボッコだとなる。けれども、誰が増えたのか、とにかく皆、自分だけは、座敷ボッコではないと言い張る。それで物語は終わっている。それ以降、どうなったんだ。座敷ボッコは消えたのか。ずっと存在し続けたのか。

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