小説

『座敷ボッコたち』春名功武(『ざしき童子のはなし』(東北地方))

 当の生徒たちも気が付き始めたようだ。「えー」と目をひん剥いて驚いたり、「キャッ」と叫んで怖がったり、「何々」と気味悪がったり、中には面白がっている者もいた。みんな、座敷ボッコだと認識しているようで、顔を向かい合わせて、誰が座敷ボッコなのだろうかと、ガヤガヤと騒ぎだした。そのうち、他クラスの生徒たちも気が付き始め、さらに騒ぎは大きくなった。先生陣が騒ぎを鎮めようと「静かにしろ」「静かに」と注意するが、2組の生徒数の多さに気が付くと、すっかり黙り込んでしまった。学年主任だけは、気が付いているのか、気が付いてないのか、未だに誰1人聞いちゃいないくだらない話を長々と続けている。前からだと生徒が増えた事は分かりづらいのかもしれない。

 男は、腕を組み考え込む。何とかしなければならない。こうなったら、どの生徒が座敷ボッコなのか明らかにするしかない。正体を暴けば消えていなくなるはずだ。しかし、座敷ボッコというのは、1人も知らない顔がなく、1人も同じ顔がなく、誰が増えたのか、どうしてもわからないのだ。果たして見極める事が出来るだろうか。だからといって、指を咥えて見ていても何の解決にもならない。可愛い教え子だ。さすがに分かるだろう。このクラスを受持って4カ月。生徒とは向き合ってきたつもりだ。思い出だってある。担任教師の威信にかけて、座敷ボッコを白日の下に晒してやる。
 男は先頭の生徒から順番に、生徒なのか、座敷ボッコなのか、判断していくことにした。ひとりひとり顔を見て、名前を言っていく。座敷ボッコなら名前は出てこないはず。

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