小説

『座敷ボッコたち』春名功武(『ざしき童子のはなし』(東北地方))

 林間学校の朝は早い。6時半には宿泊施設の運動場で朝の集いが行われる。生徒たちがぞろぞろと建物から出て来ると、クラスごとに分かれて整列する。朝の集いは、学年主任の話から始まる。朝っぱらから、面白くもない退屈な話が長々と続く。生徒たちは寝ぼけ眼で聞いちゃあいない。そんな中、男は、自分の受持つクラスの列を見て、口をあんぐりさせた。
 5年生は全部で3クラス。1組が35人、3組は34人、男が受け持つ2組は34人のはずだが、どうもそれ以上いるように見えた。1組と3組の列に比べ、2組の列だけが群を抜いて長いのだ。かなり長い。倍ではきかない。70人以上はいるんじゃないだろうか。
「…どうなっているんだ。何で生徒がこんなにもいるんだ」
 男は怪訝そうに眉を寄せる。だが次の瞬間、昨晩の事が頭に浮かんだ。

 昨晩、生徒が部屋の中でドタバタと騒いでいたから、男は何度か注意した。あれは、座敷ボッコごっこをしていたのだろう。「大道めぐり、大道めぐり」と発しながら、部屋の中をぐるぐるぐるぐるまわっていた。座敷ボッコごっこのせいで生徒が増えたのではないか。座敷ボッコの話に、真似をすると人数が増えるからやってはいけない、なんて注釈は聞いた事がない。だけど、現に生徒は増えている。座敷ボッコの話は、決して真似をしてはいけない類の言い伝えだったのかもしれない。
 座敷ボッコの話は、10人の子供が、いつしか11人に増える。増えたのは1人。男のクラスは34人が70人以上に増えた。(怖くてまだ正確な人数は数えてない)。こんなにも増えたのは、生徒たちが何度も何度も繰り返し座敷ボッコごっこをしたからだろう。注意した時、廊下で正座させていれば、こんなにも増えてなかったんじゃないか。男の顔に後悔が滲む。

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