玄関に戻ろうと振り返ると、開けたままにしておいたはずの襖はいつのまにかぴったりと閉じられていた。
恐怖を覚えながら、幸は襖に手をかけ一気に開く。
開いた先にあったのは、今いる部屋と同じような和室であった。
「どどどどうしよう有希ちゃん」
慌てふためく幸とは反対に、有希は冷静だった。
「これ、マヨイガ、だよね?」
「え? マヨイガって……民話だっけ?」
「そうそう。たしか、何か一つその家から持ち出せば富や幸福を得られる、って言い伝えられている場所なんだけど、お話の中の女性は、怖くなって逃げだしたんだよね」
「でも今まさにその状況だよね? 怖くなって出ようとしたところなのに」
「うーん。そうだよね。なんで出られないんだろう」
「その迷い込んだ女性って、最後どうなったんだっけ?」
「えっとね。逃げ出して家に帰った後、川から流れてきたお椀を拾って、長者になったんだよ。まあ、無欲な正直者が幸せになるのは、昔話の鉄板だね」
「無欲な正直者……」
「そんな無欲な正直者のことが、マヨイガは好きなんだと思うけど……。うーん。どうやったら出られるかな」
有希はつないでいた手を離し、腕を組んで考え込む。しばらくしてから顔を上げ、目を見開く。
幸の目からぽろぽろと大粒の涙が流れていたからである。
「大丈夫?」
有希は幸の背中をぎこちない手つきで撫でる。幸はしゃっくりをあげながら「ごめん」とかすれた声で言った。
「こんな目にあってるの、わたしのせいだ。だって、わたし無欲な正直者じゃないから」
「え? 仲山さんが?」
驚く有希に、幸は続ける。