小説

『迷い子達へ』蒼山ゆう子(『マヨイガ』(東北地方、関東地方))

「このオリエンテーリングだって、本当は班長なんて嫌だったの。わたし、超方向音痴だし。でも、当たり前のように指名されて。今日も頼りにされて、ずっと緊張しっぱなしだった。それなのに、みんなわたしが引っ張ることが当然みたいな顔して……。感謝くらいしてよって思ってた。だから、わたしは無欲でも正直者でもないの」
 泣き続ける幸に、有希はおろおろと意味もなく辺りを見回し、それからリュックからティッシュを取り出して幸へと差し出した。
「ごめんね、仲山さん。わたし、今日ほとんど何もしていなかった。任せっきりだったね」
 幸が顔を上げてティッシュを受け取り、「ありがと」と小さな声で言いながら一枚取り出して目の縁をぬぐう。
「ううん、ごめん。有希ちゃんが謝ることじゃないよ。班のメンバー的にも、有希ちゃんは話しづらかったよね」
 そう言って、幸はその場に座り込み、力なくため息をついた。
 オリエンテーリングの班はくじ引きで決まったのだが、班員の六人中五人が、日頃クラスでもつるんでいるメンバーであった。
「ううん。ちゃんと謝らせて。仲山さん、わたしも輪に入れるように気つかって色々話しかけてくれてたのに、わたしがうまく返せなくて気まずい思いさせてたよね。ごめんね」
 有希は屈んで、幸と視線を合わせた。
 有希の透き通った黒い瞳に見つめられ、幸は思わず目をそらした。
「それも、別にやさしさとかじゃないの。班長だから、しっかりしなきゃって思って。メンバーみんな仲良くさせなきゃって」
「それでも、わたしはうれしかったよ。今も、追いかけてきてくれてありがとう。一人だったら途方にくれてたと思う」
「うそ。すっごい冷静じゃん」
「えっと、それは……仲山さんがパニクってくれたから、逆に冷静になれたというか」
「え、なにそれ」
「あ、ごめん、悪い意味じゃなくて……」
「うん。分かってるよ」
 少し間があって、お互いにぷっ、とふきだした。
 有希が立ち上がり、幸に向かって手を差し伸べる。
「襖、開けてみようよ」
「そうだね。色々正直に言ったから、次は出られるかも」

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