「なんだいおめえさん、またやるのかい?」
丁度俺の家を訪れた茂は、俺にそう訊ねた。
俺は床下から諸々の道具を取り出していたところだった。その床は生前ポチが何度も何度も、吠えたてていたあの床だ。
取り出した道具らはみな花火を作るためのものだった。花火を作るのは何年振りかのことだが、果たして上手くいくだろうか。失っているであろうカンを無事取り戻せるだろうか。だがそれまで何十年と花火を作ってきた俺だ、どうにかなるだろう。
長年娯楽の少ないこの村の伝統であった花火大会であるが、減り続ける人口、難しい言葉で言えば過疎化のためにその年を最後に、消滅してしまっていた。
俺も未練の無いよう、こうして床下に道具をしまい込んでいたのだが、花火が大好きだったポチは、俺にもう一度作れ作れ、花火を打ち上げろ打ち上げろと、何度だってそう言っていたのだった。
「けどいいのかい?だってありゃあ、大して見る人間がいねえのに、わざわざ打ち上げたってしょうがねえってことでよ、無くしちまったんだろ?」
「おめえも、この前のみんなの顔見たろう?あんな顔見れりゃあよ、それが一人だけだろうが二人だけだろうが、そんなのどうだっていいんだって、俺は思っちまったんだよ。……それにやれ、やれってよ、うるせえから、ポチのやつがよ」
それは違いねえと、また二人笑った。
曲がらない腰も、歩く度痛む膝も、身体中のありとあらゆる痛みも、みな背負い俺は明日も生きるだろう。一発でも多くの花火を、打ち上げてやろう。そうすりゃ天国のポチにも、きっと見える。