小説

『天翔けるポチの花』阿部凌大(『花坂爺さん』)

 輝かしいその光景は、見る者の表情を同じように染め上げていくらしい。あまりにも突然の花火に驚き、たじろいでいたその混乱は、もはや上からすっかりと塗り潰され、村人たちの表情はみな、溢れんばかりの笑顔に変わっていた。
 圧倒的な光と轟音の最中、歓声と共に語らう大人達に、飛び上がる子供たち、何も語らないがじっと空を見つめ何かを思う、俺のような老人らもいる。本音を言えば既に足腰をはじめ全身に限界を迎え、越えている俺も、他の老人らと同じように腰かけ、眺めていたい。だがなにせこれは、ポチから俺へ託された最後の仕事だ。
 そして俺は遺灰を、最後は思い切り拳に握りしめ、大きく振り上げ、夜空へと投げ放つ。
 その強烈な光線は何よりも力強く夜空へと走っていく。みな息を飲み、その行く末を見つめているのか、不思議な静寂が満ちながら光線だけが唸るように鳴っていた。
 それまでのどれよりも高く高く伸びた光線が不意に消える。だが誰も目を離さない。瞬きすら選ばない。次の瞬間にやって来る、その大輪の存在を知っている。
 永遠にも思われるその一瞬が過ぎ去ると共に、僅かにほのめき、現れた光の粒は、途端一気に花開き、その光彩は視界いっぱいの夜空を埋め尽くさんとするように、どこまでも、どこまでも広がっていく。
 声にならぬ声が辺りから点々と響き、その声には涙も混じっていた。
 遅れて響く轟音はこれまたさらに強烈で、それはこの花火大会の終わりを示すには、十分過ぎる働きだった。
 俺はてっきり自分が、ポチに託されたこの仕事を終えた時、またはその最中で、もう何度目かも分からぬ涙を流すのだろうと思っていたのだが、その予想はどうやら外れたらしい。
 その代わり心の底から、ポチを、誇らしく感じるその思いだけが、俺の胸いっぱいに満ち満ちているのだった。

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