小説

『天翔けるポチの花』阿部凌大(『花坂爺さん』)

 そしてそれが起こったのは、灰を摘まんだ指先をじっと目の前に上げ、ふとその指先を擦らせたその瞬間だった。
 突然その指先が強烈に光ったかと思うと、激しい光線がそこから一気に上空へと飛び上がった。
 俺は思わずのけぞり、尻をついて見上げる。飛沫のような細かな火花を飛び散らせながら、燃え盛り、伸びていくその光線は、同時に夜の静寂を切り裂く、鳥の音に似た甲高い響きと共にどこまでも駆け上がっていく。
 夜空に向かい、伸びていくそれを、俺は声も出せず見上げるばかりで、するとその光線は夜の闇に溶け入るようにふっと、消え去り、だが次の瞬間、華々しい光彩は破裂し、少し遅れ一発の轟音も響かせながら、巨大な一輪を一気に花開かせるのだった。鮮やかなその花火は、余韻を残しながらまた溶け散った。
 視界に焼き付いたその光彩の跡を見上げながら、俺はしばらく茫然としたまま立ち上がることが出来なかった。
 ポチの遺灰を指先で擦った途端、突然に一輪の花火が打ち上がった。
 なぜそんなことが起きたのか、こんな老いぼれに理由など分かるわけがなかった。しかし気づけば俺はまたポチの遺灰に腕を伸ばし、同じようにいくらか指先で摘まむと、強くそれを擦った。
 何度繰り返しても、同じようにポチの遺灰から花火が打ち上がった。その度に色鮮やかな一発は煌びやかに炸裂し、
同時に心臓ごと全身を強く揺さぶるような轟音も響いた。
 そしてその光景を目の当たりにしながら、またしても俺の両の目からは、おびただしいほどの涙が流れ始めていた。
「……そうかあ、好きだったもんなあ、ポチは」

1 2 3 4 5 6 7