小説

『天翔けるポチの花』阿部凌大(『花坂爺さん』)

 俺は村の外れの林に入り、いくらか奥まで進みながら、比較的木々の少ない、開けた場所を探した。
 そこでポチを燃やしながら、俺は最後の別れを、ポチと二人きりで過ごしたいと思った。
 適当な木の枝や枯れ葉でポチの身体を包み、そっと火をつける。燃えやすければなんだっていいはずなのに、気づけばポチの好きそうな木の枝を選んでいることに俺は気づいた。俺が振り回す木の枝の先をひたすらに追いかけるのが、ポチの好きな遊びだった。
 ある程度火がつくと、もう間近で直視することは出来ず、俺は少し離れ、切株の上に腰を下ろす。
 作業の間は一生懸命だったためにどうでもよかったが、やはり身体の至る所が痛い。俺ももう随分爺さんになった。歳を重ねるにつれ、ため息が出るほど痛い場所が増える。
 ポチの燃える細い細い煙が、ゆっくりと空へと立ち昇っていく。もうポチは手の届かない場所まで、昇っていってしまった。そう思えば途端寂しさは膨れ上がっていくようで、そうなれば俺はもうおかしくなってしまう気がして、喉の奥から込み上がる嗚咽や叫びを必死に堪えながら、その煙をただじっと見つめ、またその視界は今度こそ溢れ続ける涙に覆われていった。
 俺が先に逝ってしまえばどれだけ楽だっただろう。もしそうなってもポチは大丈夫だ。村のみなが、最後まで大切に可愛がってくれる。神様がいるのならばどうして、俺の方を残してしまったのだろう。そこに何か意味があるのならば、頼むから教えてほしい。

 ポチがすっかり焼けてしまい、既に煙も消え去った後も、俺はしばらくじっとそれを見つめたままだったようで、気づけばすっかりと陽は沈み、辺りは暗くなっていた。
 立ち上がり近寄るとそこにはもう灰と、それに埋もれる小さな骨だけが見えた。その場にしゃがみこみ、指先でその灰を僅かに摘まんでみると、まだ温かく、それにほんの少しの懐かしみを覚えた。

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