小説

『天翔けるポチの花』阿部凌大(『花坂爺さん』)

 腕に抱えた布からポチの頭だけを出す。茂は目元に涙を溜めたまま優し気な表情になって、ポチの頭を乾いたその指先で何度も何度も、慈しみながら撫でてくれた。
「皺だらけのおめぇの顔、泣いたり笑ったりでぐしゃぐしゃじゃねえかよ」
「おめえさんだっておんなじだろう」
 喉から絞り出すような茂のその声になぜかおかしさを感じて、俺たちは二人笑った。
「茂、おめぇの孫二人にもよ、ポチは随分、かわいがってもらったなあ」
「あいつらにゃあ、とても見せらんねえよ。あとで俺から言っとくさ。もうポチ、燃やしちまうんだろ?」
「ああ」
 茂は惜しむようにポチをもう一度撫で、手を振って俺と別れた。
 狭い村だ、すぐにポチの死は村中に伝わるだろう。放し飼いも同然、また好き勝手に走り回ることの好きなポチだったから、村中がポチの遊び場のようなものだった。誰もが勝手にポチに餌を与えていたから、俺が用意した餌はあまり食ってくれなかった。村の僅かな子供たちがポチと一緒に走り回る、そのはしゃぎ声と鳴き声をよく耳にした。
 ポチは村のみなに愛されていて、きっとみなが悲しんでくれるのだろう。そう思うとポチは、随分と幸せなやつだった。

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