小説

『ひとつくらいは手を貸そう』有栖れの(『天狗の羽団扇』)

 彼らが再びこの学校に姿を現すことはなかった。風の噂では、部員側はどうやらみな転校したらしい。顧問は粛々と任を解かれ、少年の担任はしばらくの間臨時の教員が受け持つこととなった。
 非日常が入り込んだ居心地の悪さはしばらく続いたものの、若い彼らはじきに日常へと戻っていった。

 例の事件の責任をとってというわけではないが――そもそも校長もしかつめらしく頭を下げていただけで、在職したままだ――教頭は1学期の終業式を最後に、職を辞すことになったらしい。
 学期末。教師から告げられた夏休みの課題や諸注意など既に忘れ去り、少しの名残惜しさと開放感に浮かれ騒ぐ放課後の教室を一度離れ、少年は先に朝礼台でみた姿を探して校内を巡った。職員室、各学年の廊下、用務員室。
 教頭を見つけたのは、夏の緑がざわめく、裏庭の一角だった。
 短い期間だったとはいえ、処理すべきことは多かったのだろう。用務員にでも託せば良さそうなものの、廃棄物とおぼしき段ボール箱を積んだ台車を、律儀にも自ら、長身を少し屈めるようにして裏門そばのゴミ集積所に運ぶところのようであった。
 近づく気配を感じたのか、その偉丈夫は少年に向き直る。

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