「それでその手鏡は、今もダムの底にあるそうです」
「ダムって鏡みたいですね。大きくて」なぜか私の頭の中に、星座アプリのことがよぎった。
「二人は一緒にダムを巡ってたんでしょうか」目の前には、鞄から出されたダムカードが山をつくっている。
「でももう二人ともここにはいなくて」
「どこかに帰ったんでしょうか」
卓上に残された木製の小さなメニューには、喫茶輝夜、と書いてある。
「たとえば、月とかに」
「そうかもしれませんね」実月さんは、静かに言った。
「でもいなかったことにはならない」そしてカウンターの内側に行くと、冷蔵庫を開けた。
「これがいちばんおいしいやつです」そう言いながらグラスを置く。
「はい」卓上の林檎ジュースは、窓から差し込む午後の日差しのなかで、光そのもののように眩しかった。