小説

『真夜中のメンコ大会』鈴木和夫(『地域の伝説。言い伝え(夜、墓でメンコの音がする)』(愛知県豊川市))

 相手のふたりは不満そうな顔をしながらも拍手した。殴られると思ったのだろう。
 その後は、決勝ということで私とマコト君が戦ったけれど、もちろんマコト君には勝てなかった。
 プロレスごっこが終わると、マコト君は賞品のメンコの箱を弟の写真の前に置いた。
 きちんと正座して、手を合わせる。私はこの前の葬式を思い出した。
 その日は、夕方まで弟の写真の前で遊んだ。

 その日の後も、雨が降ったり暑すぎたりすると、マコト君の家に行った。それまではあまり家にあげてくれることの少なかったマコトくんだったが、まあ、特別不思議にも思わなかった。

 
 夏休みが終わりに近づいたころ、なぜかマコトくんだけ遊びに出てこなかった。気になってみんなで家の前を通ると、スクーターが止まっていた。葬式の時に置いてあったのを見たスクーターだ。玄関で声をかけると、マコト君のお母さんが出てきた。葬式の時と同じ黒い服を着ていた。
「マコトねえ。今日、遊べないの。またね」
 そう言って家に入っていった。気のせいか線香の匂いがしてお経が聞こえる気がした。私たちは公園へ行って夕方まで遊んだ。
「マコト君のうち、また誰か死んだのかな。もしかしてマコト君?」
 友だちの一人がいたずらっぽく言っても、私は笑えなかった。

 その日の夕方、日が落ちるころ、マコト君が訪ねて来た。怒ったような顔でメンコの箱を抱えている。私は一歩下がった。マコト君に殴られると思ったのだ。だけど、マコト君が死んだのかなんて言ったのは私じゃない。
「マコト君。ゴメン。だけど、ぼくじゃないんだよ」
 私はてっきり殴られると思った。ところが、マコト君は瞬きもせずに私を見て頭を下げた。

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