小説

『真夜中のメンコ大会』鈴木和夫(『地域の伝説。言い伝え(夜、墓でメンコの音がする)』(愛知県豊川市))

「今日はプロレスごっこだ」
 マコト君が言って、私たちは赤コーナーと青コーナーに分かれた。写真のある机の横が赤、反対側が青コーナーになった。ここでもやっぱりマコト君は強い。私はマコト君とタッグを組むことになって安心した。
「ねえ。レフリーは?」
 玄関で線香の匂いの話をしたヤツが聞いた。
「レフリーは栄(マコト君の弟)だ」
 マコト君は机の写真を指さした。心なしか写真が笑っているように見えた。
「そう言えば、レフリーやりたいって言ってたな」
 誰かが言ったら、マコト君は頬をあげてうなずいた。いつも嬉しい時にする顔だ。
「今日は賞品を用意した。これだ」
 マコト君はいつも持っているメンコの箱をみんなに見せた。
「今日、優勝したヤツにはこれをやる」
 みんな、色めき立った。マコト君のメンコの箱はいっぱいになっている。数が多いだけじゃない。人気のある王選手の絵が書いてあるのや、珍しい銀色のヤツも入っている。
 マコト君はメンコの箱を弟の写真の前において大声を上げた。
「本日のメーンエベントー。15分一本勝負 ゴング」
 これを合図にまず私が出て行った。相手と組み合って押していく。マコト君のいる赤コーナーまで行くと、マコト君が腕を振り上げて相手を叩く。恐怖のあまり逃げ出して行く相手をタッチしたマコト君がおいかけて四の字固めをかけた。
 あまりの痛さに相手は泣きながらギブアップした。マコト君は弟の写真の後ろに行き、裏声になって言う。
「ただいまの勝負。赤コーナーの勝ち」

 

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