小説

『とある夫婦とブランコ』真銅ひろし(『夢を買う』(新潟県))

 妻は手を前に出す。少し恥ずかしかったが、ブランコを降りて手をつないだ。久しぶりにつないだその手はとても柔らかく、そして寒空の下だったからとても冷たかった。
「あのさ、聞いていい?」
「なに?」
「・・・俺と結婚して幸せ?」
 この言葉に妻は目を丸くして、大きく笑った。
「そんなにおかしいかな。」
「おかしいに決まってるじゃない。今までで一番面白いわ。」
 ケラケラと笑い続ける。
「そんなに笑わないでよ。」
「いいじゃない。お笑い芸人なんだから。」
「笑われるのと、笑わせるのは違うの。」
「そうね、ごめんなさい。」
 妻は笑いを堪えて、自分を落ち着かせるように、一呼吸置いてからゆっくりとこちらに体を預けて来た。
「ちょっと、ちょっと、どうしたの?」
「いいからちょっとこのまま。」
 今更胸が高鳴ったりはしないが、妻の行動にどう対処していいのか戸惑った。そして少しの沈黙が流れた。風の音、木の葉が揺れる音だけが聞こえてくる。

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