小説

『とある夫婦とブランコ』真銅ひろし(『夢を買う』(新潟県))

「・・・好きなようにやりなさいよ。何年一緒にいると思ってんの。」
 その声はとても冷静だけれど温かかった。
「ごめん。」
「謝らなくてもいいでしょ。」
 妻は手を後ろに回してくる。
「ちょっ、外なんですけど。人が見たらどうすんの。」
 慌てて声をかけるが、やめようとはしなかった。
「あのね、今日のライブね。」
「・・・。」
「つまらなかった。」
 その声は冷静さのみだった。
「・・・ごめん。」
「だって何回も見たやつなんだもん。新ネタ作りなさいよ。」
「簡単に言うなよ。」
「そうしないと白い椿はなかなか咲かないわよ。」
 回して来た腕が強くなるのを感じた。こちらもそっと妻の後ろに手を回す。
「頑張ります。」
「当たり前です。死ぬ気でやってください。」
 二人はクスクスと笑った。
 二人のそばに白いものが落ちて来た。上を向くと細かい雪がチラチラと降って来ていた。
 

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