小説

『トマトの重さ』綿貫歌(『死神(落語)』)

「さあ。でもアタシが助けてあげることもできます」
 どうやって、と僕はすっかり掠れた声で聞いた。
「アタシにはその試験とやらの問題をアナタに渡すことができますよ」
 僕は老婆に慣れてきたのか、流石に胡散臭いものを感じていた。僕がしばらく沈黙したことでそれを察したのか、老婆が言った。
「信用していない顔ですね。じゃあ今度の力試しの試験、中間試験とか言うんだったっけかしら、その問題を持って来てあげましょ」
「本当に?」
「エエ、本当に」
 僕は少しばかり考えた。中間試験は成績に直接反映されるものではないから、それで貰った問題が例え偽物でも差し支えはなかった。しかしこの怪しい老婆、何を考えているのかさっぱりわからないことに僕は少々恐怖していた。
「見返りに何を要求するんです?」
 それに対して老婆はケケケ、と薄気味悪く笑った。
「とりあえず、それは中間試験を受けた後に話しましょ。来週、ここで同じ時間に渡しますからね」
 老婆の口調には有無を言わせぬものがあり、かくいう私も老婆の怪しさから渋ってみせたりしたが、本音は藁をも掴む気持ちである。

 次の週半信半疑で言われたように同じ時間同じ場所で待っていると、老婆が現れた。そしてろくに言葉も交わさずに老婆は埃っぽい茶封筒を押し付けると、また薄気味悪く笑って去っていった。
 私は貰った茶封筒に入れられた問題用紙をもとに、その数日後の中間試験に臨んだ。そして配られた用紙を見て驚愕した。文章が一言一句違わない上にフォントの配置やサイズまでもが老婆から貰ったものとぴったり同じだったのである。

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