駅前でタクシーを拾って、婆さんを乗せた。これだけ投資してもらったのだ、タクシー代くらい出さねば。
手を貸してやって車に乗せた時、娘が急に言った。
「アタシ、この後友だちと会うからここで。ばあちゃん、先に帰っていて」
名残惜し気にいつまでも車の後ろ窓から振られている小さな白い手を見送り、俺はいつか遠い目になっていた。だが、ふと脇をみてまた飛び上がった。
あの娘がこちらを向いて立っている。腕組みしたまま。
「あんた誰」
完全に分かっていたのだ。彼女は冷たい声で続けて尋ねた。
「どうして婆さんから金取るの」
「お、俺が」目は伏せたまま、少し声に凄みを出してみる。
「組織に声かけたらオマエも婆さんもどうなるか知らないからな」
「て言うか」
娘はまだ腕組みしたままだが、声の険が少しだけ取れた。
「よくタケヤマを相手にしたよね? よっぽどの勇者か素人だってコト?」
俺は多分、口がぽかんと開いていただろう。
娘はまったく物おじせず、淡々とこう訊いてきた。
「そこの勇者どの、理由が聞きたいんですけど?」
「何の」拗ねた言い方になってしまう。
「年寄りから金取るの、初めてじゃあなさそうだから」
俺は大きく息を吐いて、口を開いた。初めて他人に話すことだった。
「小学二年で両親が離婚した、それから、祖母に育てられた」
「へえ」
「オニババだった。金持ちのオニババだ」
「その人への復讐ってコト?」
「どうとでも言えよ」俺はリュックを肩から降ろす。重みで肩が痛くなってきたのもある。
「今まで取った金は全部、封も切ってない。オニババの残した遺産で何とか食っていけたから。しかし俺はどうしても許せなかったんだ、ヤツが」
娘はくるりときびすを返す。「そう、じゃあね」
「待てよ」俺はリュックを開けた。「アンタの婆さんは人が良さげだし、散々会って話もしちまった、今回はチャラってことで金は返す。さすがに金額も多すぎるしな」
振り返り娘が言った。
「二千五百万すぐ揃えられるって、考えたら恐くない?」
「タンス預金かな、程度にしか」
「アンタは年寄りの暮らしをよく知ってるみたいだね」
娘が皮肉っぽく笑う。