小説

『21番目のこぶ』白石如月(『こぶとりじいさん』)

 特別な子を身ごもった私たちは、出産後のケアや育児方法など、情報交換しあい、互いを高めあい、いたわりあい、少しずつ成長していくわが子のエコー画像を見せあいながら「良いお友だちになれるといいね」とほほえみあい、再び愛しいと思えるようになった妊娠週数を積み重ねていった。

 秋の初めの、生ぬるいような午後だった。
 私と倫子さんはランチを食べたあと、運動がてら、足の向くまま通りを歩いていた。するとザッと雨が降ってきた。私たちは慌てて手近な屋根を求め、ギッと押し開けた扉の横に「辻」という一文字が見えた。
「いらっしゃいませ」
 女性の声だった。しかし姿がわからない。おもてに比べて特別暗いわけでも、明るいわけでもないのに、その空間に目が順応するまでしばらくかかった。そしてようやく像を結んだ相手はカウンターの向こう側に立っていた。美しくも醜くもない、ありふれた容姿と笑い方をするその人は、若くも老いてもおらず、そう、私たちとさして変わらない年齢に見えた。
「すみません、急に降られてしまって……」
「ええ、かまいませんとも。お好きなだけ、休んでいってくださいまし」
 私がぺこりと頭を下げると、店主はにっこり笑ってくれた。
「ここ、なんのお店なんです?」
「質屋でございます。辻堂と申します。流れたものがいくつかございますゆえ、眺めていってくださいまし」
 倫子さんが尋ねると、店主はカウンターそばのガラスケースを指さした。そこには桃色のような、枇杷色のような、なんともいえない色と形をしたテニスボール大のものが納めてあった。

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