小説

『21番目のこぶ』白石如月(『こぶとりじいさん』)

LINEの画面には、数日前、今の私と同じような状況になった倫子さんのメッセージが躍っている。彼女のエコー画像からも、よけいな一個のこぶが消えたのだ。
私はメッセージを送るのももどかしく、電話をかけた。しかしつながらない。何度目かのかけ直しで、ようやく「はい」と返事があった。
「あ、倫子さん! エコー検査、同じ結果だったよ」
「そう。ねえ、悪いんだけど、もう連絡しないでくれる?」
「え」
「私たち、やっぱり合わないと思うの。それに私、S病院に転院するのよ。だからもう会うこともないと思うわ」
 用件を伝えると、電話はあっさり切れた。S病院は芸能人御用達の、いわゆるプリンセス産院だ。ママ友は子どもの縁で結ばれるもの。お腹の子が「ふつうの子」になれた今、平凡な主婦の私になど用はないということか。
 それならそれでいい、と思った。ルームミラーに映る私は笑っていた。
お腹にそっと手を当てる。蹴った。一回、二回、三回。嬉しくないわけがない。私は偽善者じゃない。「ふつうに健康な子」を望むのは、ごく当たり前の欲求だ。
 私は車のエンジンをかけ、ショッピングセンターに向かった。まだあまり準備していなかったベビーグッズをどんどん選んだ。標準的な発育に合わせた知育玩具も買った。ベビースイミングのパンフレットももらってきた。私の心からもこぶが取れたように、気持ちが軽くなっていた。

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