小説

『21番目のこぶ』白石如月(『こぶとりじいさん』)

「これ……なんです?」
「こぶでございます」
「こぶ……」
「はい。福の物でございますから、たいていみなさん受け戻しされるんですが、事情が事情の場合、こうして質流れすることもございます」
 私と倫子さんは顔を見合わせた。これが本当にこぶだとしたら、人体、もしくは動物の体から切り離したものだ。そんな気味の悪いものが、どうして福の物なんだろう。漢方薬の材料になるとかで、価値があるんだろうか……。
「えーっと、ちなみに、このバッグ、いくらで預かってもらえます?」
 話題を変えようとしたのか、倫子さんがハンドバッグをカウンターに置いた。ルイ・ヴィトンだ。
「そうでございますねえ……頑張らせていただいて、五千円でしょうか」
「五千円!? 冗談じゃないわ、発売されたばっかりだし、五十万円したのよ」
 店主の返事に、倫子さんは怒りを通りこして呆れていた。私は呆れるというより、なんだか恐ろしくなってきていた。
「ご期待に沿えず申し訳ございませんねえ……しかしお二人とも、バッグなど比ではない、価値あるものをお持ちではないですか」
 店主は目を細め、商売人の顔になり、私と倫子さんのふっくらしたお腹を見つめた。
「21番目のこぶを持っていらっしゃる。そちらでしたら、おひとつ、五百万円をお渡しできます」

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