小説

『魂の愛』永佑輔(『菊花の約』)

 エロい間接照明のせいで年齢は判別できないが、アゴにほくろはないようだ。けれど整形手術で除去したのかも知れない。それに東北訛りがあるかも知れない。翠は訛りを確かめるべく、声を振り絞って訊く。
「寿司って言ってみて」
 何かの映画で観た。東北訛りがあるなら「すし」は「すす」に聞こえるはずだ。ところが翠は急に冷静になって、
「あ、やっぱり寿司って言わなくていいや。差別的だもんね、そういうのって」
 翠はこの局面にはまったく必要のないポリコレを引っ張り出し、反省し、質問を改める。
「アナタ、左上の人ですよね?」
 ポスター左上の張本人ですら「左上の人ですよね」と言われて、よもや自分を示しているとは思わないだろう。しかし目の前の男は質問の意図を理解した。
「違うよ、本当に誠だよ」
 男曰く、小さい頃から何が何でも会いたい、まだバイバイしたくない、と思うと肉体から魂がヒョイと抜けて会いに来ちゃう、とのこと。
「ウソだ。ポスターの左上の人だ」
「本当に誠だよ。ほら」
 男は自信たっぷりに玄関を開けた。するとそこには魂の抜けたような、いや違う、まさに魂の抜けた大村がボケーッと突っ立っているじゃないの。

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