「お兄さん、頭なでてて」
「うん」
「お兄さん、ひざまくらして」
「なあ、カンナ」
「なに?」
「・・・何か食べるか?」
お前は俺が好きなのか?──本当はそう聞こうとした。もしそれでカンナがyesと答えても別に今まで通り彼と接する。だが、要求にいつまで応えられるか分からない。ちなみにさっきの質問には「お兄さん」と答えていた。つまり俺を食べたいらしいが、どういう意味だろうか。やはり俺が好きなのか。
──月末、残業のため俺が帰宅できたのは日付が変わった頃だった。カンナは相変わらず家にいる。そう思って帰ったが、カンナは玄関で倒れていた。いつかと同じ、外で倒れていた時と同じように。
「ど、どうしたカンナ! 苦しいのか? 痛いのか?」
そんな言葉を投げつけて、俺は冷静じゃなかった。だってカンナを腕の中で抱きかかえていたんだ。そのことに気がついたのは彼が目を覚ましてからだった。
「おにい、さん。おそい、よ」
「・・・ごめん」
腕の中で笑った彼を見て、俺はカンナを離せなかった。そのままどれだけ過ぎたか分からない。ずっと抱きしめていた。カンナはいつの間にかいびきをかいていた。俺は空腹に気がついたが、意識が薄れてそのまま玄関で横になってしまった。