小説

『神来月』蒼薫(『鶴の恩返し』)

 次の日、頭痛を感じながら目を開くとベッドの上だった。風邪を引いたようだがここは病院じゃない。家のベッドだ。カンナが運んでくれたらしい。
 そういえばカンナがいない。代わりに真横には鍋が置いてある。蓋を開けると味噌汁だった。おかゆの方が食べたかったが、一口飲むとカンナを拝みたくなった。こんな美味しい味噌汁が作れるなら、もっと早く言ってくれれば良いのに。

 味噌汁を飲んでまた寝てしまった俺は夕方に目覚めた。頭痛は少し軽くなった。

「おはようお兄さん」
「カンナ、どこに行っていたんだ?」
「買い物だよ。お兄さんが食べたいものを作ろうと思って」
「味噌汁美味しかったよ。今度はおかゆも一緒に食べたいな」

 カンナは得意気に笑って台所へ向かう。その背中を眺めているとカンナは足を止めて、振り返る。

 
 「黒い布の奥は覗かないでください」
 「黒い布?」
 「恥ずかしいから見ないでください」
 「恥ずかしい? カンナは料理が上手なのに? 俺にも教えて──」
 「ダメ!! 絶対見ないで!!」

 初めて、カンナに怒鳴られた。狼のように吠えた。俺の知っているカンナじゃなかった。カンナはそのまま台所へ向かう。つい、奥を覗いたがそこは布で仕切りになっていた。いつの間にかつけられた黒い布だ。それの奥では、確かに料理をしている音がする。包丁が進む音。ガスが入る音。水道の轟音。見えるのはカンナの下半身のみ。細くて白い足がそこにあるだけ。気にはなったが俺は漫画を眺めることにした。

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