フライも苦手なら、ローストしますか、それとも刺身にして食いますかと、猫は私にどんどん提案してくる。私は、ずっと青い顔で皿の上の男性を見つめていた。けれど、眠っているらしい男性はピクリとも動かない。それが、また私を恐怖させた。
すると、青年は猫に奥に引っ込むように指示を出した。どうやら奥は厨房になっているようで、猫は首を傾げながらも、大人しく奥へと姿を消す。
猫がいなくなった後、青年が私の方を見て話し掛けた。
「食う気はしねぇか?」
「し、しないよ!いくら君が用意してくれたものでも、わ、わた、私には人間を食べるなんて…!というか、あの猫は何のだい!?一体此処は…」
「わかってる。一つずつ答えるさ。まず、此処は俺の料理店。俺がひいひいひい爺さんから引き継いだ、人間を料理する料理店だ」
「ひ…!」
「あいつは此処で料理人見習いをしている。料理の腕はまだまだだけどな、何故かソースやクリーム作るのは上手いんだ」
「料理人見習いって、彼は、ね、猫じゃないか!」
「ああ、そうだよ。この店は、迷い込んだ人間を山猫が料理して食うんだ」
「…ま、まさか、君も?」
「…ああ。俺も山猫さ。言ったろ。この店は『WILDCAT HOUSE』。山猫の家なんだから、当然山猫さ」
ニッ、と青年が笑う。その口からは白い、大きな牙が覗いていた。
見ず知らずの青年にのこのこと誘われるままについて来た、数時間前の自分を呪う。皿の上に横たわるクリーム塗れの男性が、段々自分自身に見えてきた。
「あ、ああ…まさか、私のことも食べるつもりで…」
「いや、それはしない」
「え?」
あっけらかんと言い放った青年に、思わず恐怖が何処かへ行ってしまった。