小説

『私ととある料理人の話をしよう』柑せとか(『注文の多い料理店』(岩手県))

「た、食べる為に連れて来たのではないのかい…?」
「俺らが食うのは人間だけだ。同族食いはしねー」
「…え?」

 青年は私を見て、もう一度、言った。

 同族は食わない、と。

「やっぱり気付いてなかったのか。まあ、人間の街で育ったんならそれも仕方ねえか」
「ど、同族…?私が、君達と?」
「ああ、そうだ。あんたも山猫だ。病院で会った時から、俺と同じ匂いがしたからな」
「え」

 青年は一体何を言っているんだろう。私は、生まれてからずっと街で暮らしてきたんだ。
 なのに、何故私が山猫なんて。

「時代がどんどん変わっていったからさ。あんたんとこみたいに、山を捨てて人間として生きようとするやつは別に少なくないんだよ。でも、あんたは馴染めなかったんだ。街で生まれて育っても、人間の食事を山猫の身体が受け付けなかったんだ。あんた病院で言ってたろ。食が細いって」
「そ、れは」

 幼い頃から、どうにも『美味しい』というものがわからなくて、食事があまり好きでは無かった。あまり食べられなくて、大人になった今も病院に定期的に通っている。
 けれど、まさかそんな。

「このじーさんは、身寄りが無い。おまけに、もう少しで死ぬ」

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