幼い頃から、どうにも『美味しい』というものがわからなくて、食事があまり好きでは無かった。そんな私が、今日出会ったばかりの青年が用意してくれるという食事に、胸を弾ませている。生まれて初めての感覚に、戸惑いすら覚えた。
彼の部下らしき生き物が現れたのは、その時だった。
「ボス、ボスお帰りなさいませ!今日の食材はどんな様子ですかい?」
それは、青い目玉の、二足歩行で人の言葉を喋る白い大きな猫だった。大きいと言っても、背丈は私のちょうどおへその辺りぐらいしかないけれど。
私がぎょっとして猫と、青年を交互に見る。猫は、首を傾げて私を見た後、ボスと呼んだ青年に尋ねた。
「ボス、ボスこの方は?珍しいっすね、この辺じゃ見ない顔だ」
「客だよ、俺の客。今日のメニューは、こいつに譲ってやって」
「ヘイ、かしこまりました。ああ、それにしても何て酷い顔色だ!アンタ、ちゃんと飯を食ってんのかい?」
「え、えっと」
「食えてないからこんな顔なんだ。ほら、これが今日の分な。モタモタすんな!食材は鮮度が命なんだからな!」
「ヘイ!ただいま!!」
青年が抱えていた荷物を持って奥へ引っ込む猫を、私は茫然と見送る。青年は、そんな私を席に案内した。
「な、なあ君。あの、彼は…一体何なのだい。君も、何者なのだい」
席に着き、恐る恐る尋ねると、青年は「すぐにわかる」とだけ言った。
がらがらがら。
ワゴンの音がして、再び、猫が入って来る。
そして私は、また、ぎょっとした。
ワゴンの上に乗せられていたのは、人間の男だったからだ。