小説

『傾国』椎名爽(『刺青』谷崎潤一郎)

財布にあったお札を机に置き、二人で居酒屋を出た。俺たちを茶化す声や女子たちの文句が聞こえたが、気にしなかった。
「送っていくよ。あ、いや、下心があるとか、そういうんじゃなくて…」
つい店を出てしまったが、これでは勘違いされてもおかしくない。俺は慌てて弁解した。
「…ふふ、分かってるよ、ありがとう。清原君優しいね。お言葉に甘えて、送ってもらってもいいかな」
タクシーを停めて、俺の手を引き後部座席に座る。その動作のスムーズさに俺は驚いた。
 二十分ほど経って、園田さんのアパートに着いた。俺の住んでいるぼろアパートと比べるといくらか新しい。
「じゃあね」
「待って」
タクシーを降りた園田さんが、座ったままの俺の手首をつかんだ。
「私の部屋で飲みなおそうよ」
俺は強引に部屋に連れ込まれ、たばこのにおいがついているからとシャワーを浴びるよう指示された。俺が風呂を出ると園田さんもすぐにシャワーを浴びた。俺は期待したが、男物の部屋着が用意されているのを見て焦った。

園田さん、彼氏がいるんじゃないか?

よくよく見ると用意された部屋着はどこか見覚えがある。記憶を辿っているうちに、園田さんが脱衣所から出てきた。長袖の羽織に上半身がすっぽり覆い隠され、彼女の顔とショートパンツから延びた脚に目がいった。

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